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真実と和解の日 (オレンジシャツの日) -カナダの先住民差別と寄宿学校制度の歴史

2024年09月28日 | コラム

9月30日はNational Day for Truth and Reconciliation‐真実と和解の日‐です。この日は、かつての寄宿学校制度(Residential School System)によって被害を受けた先住民の子どもたちの経験を思い起こすとともに、カナダの先住民の方に対する歴史的不正義を学ぶ日として、2013年に始まりました。

この日には子どもたちがオレンジシャツを着ることから、Orange Shirt Day(オレンジシャツの日)と呼ばれることもあります。

この記事では、真実と和解の日とオレンジシャツデーの背景と意味についてご紹介します。

現在カナダと呼ばれる北アメリカの土地には、ヨーロッパの植民者が北米に到達する何千年も前から、先住民の方々が住んでいました。カナダの先住民は以下3種類に分類され、First Nations, Métis and Inuitと呼ばれますが、この中に更に細かな民族や部族が存在します。

First Nations:50を超えるNations(民族や部族)と、600を超えるBand(バンド)と呼ばれる集団の総称。カナダが建国される前からこの土地に住んでいる民族や部族が一種類ではなかったため、Nationsは複数形です。Indianという言葉は、歴史的背景から差別的な意味合いが含まれることがあるため、カナダでは使われなくなりました。

Métis:ヨーロッパ系と先住民の混血の方を指します。16世紀頃からヨーロッパと毛皮貿易を行っていたことから、ヨーロッパ人と先住民間での婚姻関係が度々起こりました。これによって生まれた混血の子ども、そしてその子孫のことをMétis(メイティ)と呼びます。

Inuit:イヌイットと呼ばれる、カナダでもNunavutなど北極圏に住む民族のこと。

そして、全ての先住民族の総称を、”Indigenous Peoples”といいます。

カナダの土地を大切にしながら漁や狩りをして暮らしていた先住民ですが、ヨーロッパに本格的に植民地化された19世紀以降、多くの先住民は土地を喪失し、強制移住をさせられ、伝統文化が破壊されました。先住民の話す言語や信仰、文化的行事は”野蛮だ”という理由で禁止され、ヨーロッパの言語や文化を広めるための、同化政策が行われました。

カナダが建国される以前から行われていた民族差別のひとつが、”寄宿学校制度”です。

寄宿学校制度は、カナダ政府とキリスト教会が協力して19世紀から1990年代にかけて運営していたもので、先住民の子どもたちは強制的にこの寄宿学校に送られました。この制度の目的は、先住民の子どもたちを「同化」させ、彼らの文化、言語、宗教的信念を取り除くことでした。

寄宿学校では、4歳~16歳の子どもたちは家族から引き離され、母語を話すことや伝統的な文化を祝うことを禁止されました。家に帰ることが許されなかった場合も多く、中には数年間家族と会わずに寄宿学校での生活を強いられた先住民の子どももいたようです。

ここに通わされた子ども達は、教育と称して行われた虐待やネグレクトに苦しみ、肉体的、精神的なトラウマを抱えることになりました。寄宿学校制度は、関わった先住民やコミュニティを壊すだけでなく、今もなお続く世代を超えたトラウマの連鎖を生むことになりました。

この同化政策の元で運営されていた寄宿学校は、カナダ国内に約140校存在したとされています。そこでは虐待やネグレクトが日常的に行われ、また劣悪な生活環境で広まった感染症なども原因で、たくさんの子ども達が亡くなったといわれています。統計では約6000人の子どもが犠牲になったと記録されていますが、寄宿学校の全体像を把握しているとは今の段階でもいえず、実際にはこれよりもさらに多くの子ども達が命を落としたと言われています。この”寄宿学校”という名の子ども達の牢獄は、1996年、つい30年ほど前まで運営されていたのです。

犠牲になった子ども達はもちろん、運よく家に帰ってこられた子ども達も、精神的・身体的なトラウマから、この寄宿学校について多く話すことはありませんでした。カナダ政府も、このような残虐な制度の不当性を長年認めてこなかったのです。

多くの子ども達が命を落とした寄宿学校制度。先住民コミュニティの中では、この寄宿学校で虐待やネグレクトが行われてきたというのは誰もが知る事実だったそうです。しかし、友達がある日突然姿を消したり、逃げようとして亡くなったり、残虐なことが日常的に起こっていたために、生き残った方たちの傷も深く、寄宿学校で起こったことを話そうとする人は多くはいませんでした。

それでも過去の寄宿学校制度に異を唱え続けた先住民の方が社会に寄宿学校の不当性を訴え続け、政府は2008年にようやく国が犯した過ちを認め、先住民の方々に謝罪したのです。政府は2015年に「Truth and Reconciliation Commission‐真実と和解委員会‐」を設置し、カナダの過去の真実を学び、将来同じことを繰り返さないように誓う、94のCall to Action(行動喚起)を示しました。そして、2021年に連邦休日として認められました。

※真実の和解の日についてはカナダ政府のウェブサイトからも詳しくお読みいただけます。

“We have to recognize and navigate the darkness before we can see the light.
私たちが光を見るために、
まずは暗闇に気づき歩いていかなければならない”

Shayla Stonechild

真実と和解の日は、特に子ども達の間では、Orange Shirt Day(オレンジシャツの日)とよばれることもあります。このオレンジシャツの日は、先住民の女性であるフィリス・ウェブスタッド(Phyllis Webstad)さんが寄宿学校でした体験に基づいて始まりました。

フィリスさんは1970年代に6歳にして寄宿学校に送られました。その際、祖母が学校に行くために新調してくれたオレンジ色の服を着て登校したものの、学校に到着するや否やそのシャツは奪われてしまい、生徒たちは皆同じ色の服を着せられました。髪を切られた子どもも多くいました。この体験は、フィリスさんにとって深い心の傷となり、後にカナダ全体で寄宿学校制度がどのように先住民の文化やアイデンティティを奪っていったかを象徴するものとなりました。

こちらは私が地元の先住民の方から購入したオレンジシャツで、寄宿学校の場所と見つかった子ども達の遺骨の数が書かれています。

寄宿学校の歴史を忘れないためのオレンジシャツを着ている写真

“The truth is not yet fully told.
真実はまだ語り尽くされてはいない” 

Phyllis Webstad

Orange Shirt Dayは、「Every Child Matters(すべての子どもが大切)」というスローガンのもと、カナダに住む人がオレンジのシャツを着て、寄宿学校制度の犠牲となったすべての子どもたちを追悼する日です。9月30日はお休みなので、学校や幼稚園・保育園ではその前日に行われます。(今年は9月27日金曜日に行われました。) さまざまな教育機関で、先住民の方々が経験してきた差別や不正義について学び、このような歴史を繰り返さないためにはどうすれば良いか、ひとりひとりが考えます。

真実と和解委員会が出した94の行動喚起に基づき、多くのカナダの州や地域では、学校のカリキュラムや幼稚園・保育園の枠組みに、先住民の歴史や文化、寄宿学校制度についての内容が組み込まれるようになりました。オレンジシャツの日に先住民差別や歴史について深く学ぶのはもちろんですが、この土地に住むものとして、日常的に先住民の文化や教えを学ぶ機会を増やそうという動きも起きています。朝礼や催しの始めにLand Acknowledgementと呼ばれる土地の承認を行ったり、エルダーと呼ばれる長老を園に招いてお話を聞いたり、未来の世代にも、自分たちに関わる問題だという自覚を持って育っていくようにと多くの教育現場が歴史理解に取り組んでいます。

私たちAll for Kidsが行うカナダ幼児教育視察研修でも、地元のエルダーをお呼びし、先住民の方の歴史や文化のお話をしてもらい交流しています。

“Education is the key to reconciliation – education got us into this mess and education will get us out of it.
教育こそが和解の鍵である。
教育がこの事態を招いたのだから、
教育でここから私たちを救い出すのだ。”

-Honourable Murray Sinclair

カナダが正式に真実と和解に向けて動き出したのは、たった10年ほど前。多くの先住民の方が経験した寄宿学校や差別については、まだ一部しか話されていないと思います。家族から強制的に引き離され、虐待や伝染病に苦しみ亡くなった子ども達を想像すると、胸が苦しくなります。生き残った子どももトラウマを抱え、辛い過去を背負って生きていかなければいけません。彼らが経験した苦しみは、世代を越えて今も家族やコミュニティに伝わり、深い傷となっていることでしょう。この土地に住むひとりとして、そして教育者としても、このような過去を絶対に繰り返さないように、これからも学び続けたいと思います。

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