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大自然広がるカナダで火を起こす子ども達~リスキープレイについて考える~

2024年11月4日 | コラム

「私が小さな頃は、もっと楽しい遊びしてたのに!」

と、小さな公園の遊具で遊ぶ子ども達を見て思ったことのある方、いませんか?子どもの頃、森や草むら、小川で遊んだことがある人は多いのではないでしょうか。魚を捕まえたり、地面に穴を掘ってみたり、秘密基地を作ったり...。読んでいるだけで心を揺さぶるような、ワクワクする遊び。このような、大人の目的やルールがなく遊び方が様々で、子ども用に作られた公園等ではない場所での遊びを「構造化されていない遊び(Unstructured Play)」といいます。構造化されていない遊びの中には、木登りをしたり空地のドラム缶を転がしてみたり、子ども用のおもちゃや公園で遊ぶよりも怪我や失敗のリスクを多く伴う、「リスキープレイ」が多くありました。でも、現代はそういった光景もあまり見なくなりましたよね。

今日はこの、構造化されていない遊びとリスキープレイについて、筆者が過去に森のようちえんで働いた経験を混ぜながら書いていきます。過去に働いていた園については、こちらの記事で詳しくお読みいただけます。

現代の「安全な」遊び。その代償は?

時代の流れに伴い、スマホやゲームの進出で外遊びの時間が減ったことはもちろん、都市開発による森林伐採や安全面の観点から、昔の外遊びの大半であった構造化されていない遊び、そしてリスキープレイの機会が大幅に減ってしまいました。

怪我や事故のおそれから、少しでもリスクのあるものはとことん子どもたちから届かないようにし、子ども用のおもちゃは怪我をができないように作られるようになりました。「子どもを守るため」に子どもの行動は制限されるようになり、自然のルールを学ぶ機会も減ってしまいました。

もちろん、死亡事故や後遺症が残ってしまうような大きな怪我を防ぐのは大人の義務ですが、切り傷やかすり傷など軽度な怪我までを防ごうとするあまり、子ども達が自由に遊べる機会を奪い、またそれが子ども達の自信や試行錯誤の上で育まれる問題解決能力や自己肯定感の発達を妨げていると問題視する研究者も多くいます。いうまでもなく、外遊び時間の減少は体力や運動能力の低下にも繋がりますし、免疫など健康に害を及ぼすこともあります。

近年の動き

子ども達を守るためにリスクのあるもの全てを排除しようとするあまり、結果として子ども達の

  • 問題解決能力
  • 基礎体力・運動能力
  • 自己肯定感
  • コミュニケーション能力
  • 社会性
  • 創造力
  • 想像力
  • 免疫力
  • 自律神経機能など

様々なエリアの発達を妨げているのではないかという教育者や研究者が増えてきました。

上記の発達を後押しするために、近年は、子ども達の命を守り重大な怪我を防ぐ努力は続けながらも、子ども達に多少の失敗や怪我の機会を与え、自由を与え、過度に守ろうとしすぎないよう、リスキープレイの機会を許そうという動きが強まってきています。

外遊び離れについては、日本財団ジャーナルさんの、こちらの記事でも詳しくお読みになれます。

リスキープレイがたくさん起こる森のようちえん

バンクーバーから車で1時間半ほどのまちチリワックは、湖や川、山々に囲まれた自然豊かな場所。そこに、2歳半から5歳の子ども達が一日数時間森や川などで過ごす、完全屋外の森のようちえんがあります。私もご縁がありそこで一年ほど働いていましたが、人工の公園や遊び場での遊びと比べ、自然の中では多くのリスキープレイが行われ、子ども達の遊びも屋内の幼児教育施設でのものとは全く違ったため、たくさんの気づきや学びがありました。

森のようちえんでは、植物や動物について学んだり登山をしたり、子ども達の興味に沿って一日の過ごし方がガラッと変わる環境でしたが、どこで何をしていても森の中の子ども達は常に輝いていました。終始遊び尽くしてもまだまだ時間が足りないくらい、子どもも大人も遊びに夢中になる毎日でした。

子ども達に特に人気があったのは、

  • 木の家作り
  • 木登り
  • 弓矢作り
  • 火起こし
  • 魚釣り
  • どろんこ滑り台
  • 丸太の上で自然シーソー
  • 川でターザン

など、読んでいるだけでワクワクするような、子ども時代を思い出すような遊びばかりです。

もちろん、怪我や失敗のリスクは多くあります。でも、自然に囲まれ自由な遊びを許された子どもたちは本当にのびのびをしていて、構造化されすぎた現代から本来の子どもの姿に戻るようすを間近で見られた気がします。

リスキープレイを安全にするための、幼児教育者の役割

屋内の幼児教育施設に比べ、自然の中のリスクは必然的に高くなります。森の中だからこそ、幼児教育者である私たちは、適切な知識を与え、常に子ども達を近くで見守り、リスキープレイを安全に行える環境づくりを行うことが求められます。※ちなみにここでいう「安全」とは、死亡事故や後遺症が残ってしまうような大きな怪我を防ぐことをいいます。

以下、ナイフと火起こしの活動をした際に気を付けたことや子ども達にお話したことをご紹介します。

子ども達に安全なナイフの使い方を教える

ナイフを初めて使う時は、予めスペースを十分に取って並べられたマットに一人ずつ座るところから始めます。小さい子どもや慣れてない子どもがいる時は皮むき器を使って、正しい握り方と自分とは逆の方向に刃を入れることに慣れさせます。そこから本物のナイフの正しい持ち方や使い方を教えます。ナイフを使うエリアには必ず担当の大人一人が常時見守っていて、子どもだけでナイフを扱う環境は作りません。一人ひとりを見ながらナイフを使い始める時期を決めますが、最年少は3歳の子ども達でした。

子ども達がナイフを使っている時間は、安全について話す機会でもあります。

  • ナイフは決められた場所で使い、持ち歩かない
  • ふざけない
  • ナイフは武器ではなくツール
  • 一人当たりナイフは一本
  • ナイフは絶対に人に向けない。自分にも向けない。

子ども達は、小さいながらもナイフが凶器にもなりうることを知っています。でも普段からツールとして利用し、その性能を知っているからか、それを使って人を傷つけようとする子どもは一人もいませんでした。私が丸1年働いていた間、ナイフによる大きな事故はもちろんなく、切り傷も1,2回しかなかったと思います。子ども達の能力に驚かされる毎日でした。

子ども達に正しい火の扱い方を教える

火起こしの際も同じように安全についてのお話から始めます。

  • すぐに消火に使える水があること
  • ふざけない
  • やけどの恐れがあるので焚火など大きな火には近づかないこと
  • 周りに木や植物、荷物など燃え尽きそうなものがないことを確認する
  • 山火事が増える夏には火を起こさないこと

などの話をしながら実際に火打ち道具を使い始めます。子ども達は燃えやすいもの、燃えにくいものを素早く覚え、中にはそれを使って火の大きさを調節する子どももいました。こちらもやけどなどの怪我はなく、ルールを守って安全に火を扱う子ども達ばかりでした。

安全に遊べるように作られた子ども用のおもちゃとは違い、ナイフや火を使った活動にリスクがあるのはもちろんです。ですので、幼児教育者が気を付けなければいけないことも必然的に増えてきます。子ども達一人一人を知り、クラスを知り、このようなリスクのある遊びをいつどのように子ども達に触れさせるかを判断するのはもちろん、常に傍で見守っていないと大事故に繋がることもあり得ます。ただ、幼児教育者が安全面の配慮を万全にすることで、従来の子どものおもちゃでは得ることのできない、子ども達が何時間も夢中になる生きた学びの機会を提供できると思っています。

森で遊ぶ子ども達に気づかされたこと

外遊びやリスキープレイが子どもの発達に良い理由は数えきれないほどありますが、中でも私が子どもと過ごす中で印象に残ったことは、自然の中での遊びは自信に繋がるということです。自然は子ども達に挑戦する機会を与えてくれます。でこぼこ道を歩いたり、重たいものをもちあげたり、小川を渡ったり、雨の中を過ごしたり...子ども達は自然の中で学び試行錯誤を繰り返すことで、自己肯定感を上げ、自信をつけていきます。

始めは寒い日や雨の日に涙が止まらなかった子どもが、数を重ねていくうちに困難に直面しても立ち上がる力、レジリアンス(resilience)をつけていくようすを間近で見ました。

次の日にはまた笑顔で登園して、新しい一日を自然の中で楽しむのです。

子どもに失敗の機会を与えよう

屋内認可園でしか働いたことのなかった私は、屋外の無認可園に勤務し始めて、驚くことがたくさんありました。安全第一なのはもちろんですが、多くの園にはリスクを完全に取り除こうとするあまり、子ども達の遊びを必要以上に制限してしまっている側面があるのではないかと思います。従来の園で働いていると、子ども達がナイフを使ったり火を起こすなんてもってのほか。この記事を読んでくださっている方の中には、読むだけで恐ろしいと思う方も多いのではないでしょうか。

リスキープレイはもちろん、子ども専用に作られた遊具やおもちゃを使って、安全な柵の中で遊ぶよりはリスクは高いかもしれません。リスクを伴う道具を扱う分、幼児教育者たちの積極的な監督(Active Supervisionといいます)が必要なのも事実です。ただ、教育者の適切な指導の元では、リスキープレイは子どもの可能性を広げる大切な機会であると思います。

先ほどのナイフと火起こしのエピソードはほんの一例ですが、森のようちえんでリスキープレイを行って気づいたのは、「大切なのは、リスクのある遊びを禁止するのではなく、どうすれば命や大きな怪我に気を付けながらリスクのある遊びができるかを教えること」です。多少の切り傷や擦り傷は生きていく上で避けられないもの。それよりも、リスキープレイによって得られる自信や経験、知識、創造力、体力などの価値は図りきれないものだと思います。

子どもが困難に直面したり傷つくのを見るのは辛いですが、子ども達を守ろうとするあまり、大人たちが子どもを無力にしていないか、とふと思うことがあります。無限の可能性を持った子ども達が全身全霊で自然の中で生きているように、私たちには子ども達を手放す勇気が必要なのかもしれません。

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